◆スポーツ医科学◆

第4回 貧血
(会報誌 第19号より)

 今回は、スポーツ選手に認められる貧血の話をします。

 スポーツの現場ではそんなに体調は悪くないのに、何故かパフォーマンスが低下したり、 思うような記録が得られなかったりするようなことがしばしばあります。

 そんな時血液検査をすると、血液中のヘモグロビン濃度が女性で12g/dl未満、男性で14g/dl未満のアスリートを発見することがあり、それを貧血といいます。ヘモグロビンとは、鉄を含む蛋白質で赤血球の中に含まれ、体の中で酸素を運ぶ役を果たしており、運動能力に重要な要素となっています。

 「朝礼の時、貧血起こしちゃった!」といわれるような貧血は、血液低下による脳血流の障害によって起こる失神であり、今回の貧血とは別の病態です。

 スポーツ選手の貧血の原因は、主に鉄欠乏と溶血が考えられています。 鉄欠乏は鉄の消費量が、摂取量を上回る際に生じます。

 発育期の選手では、特に鉄の消費が増えます。汗の中にも鉄が含まれますので、 汗をかくことによっても鉄は失われてしまいます。さらに女子の場合は、月経によっても鉄を失います。

 一方、溶血は剣道やマラソンなどの際にかかる、足の底への強い衝撃によって 物理的に血液が壊されて引き起こされると言われています。

 貧血の症状は、息切れ、動悸、めまい、頭重感、易疲労感などがあります。以上の症状は、ヘモグロビン濃度の低下により酸素運搬能力が低下し、血流が障害されることによって起こります。

 貧血が疑わしいときは、血液検査を実施します。たいていの場合、原因は鉄欠乏と溶血なのですが、稀にそれ以外のこともあり得るので、必要に応じ、尿、便、詳しい血液検査、婦人科疾患のチェックを行う場合もあります。

 治療は原因に対する治療になります。鉄欠乏の場合には、まず鉄剤を飲んでもらいます。だいたい数ヶ月の服用で改善します。また、溶血の場合には足底への衝撃を減らすよう、練習の場所、シューズ、テーピング、走り方を工夫することにより改善することができます。

 しかし貧血は、元の原因が解決しなければ繰り返し再発するので、 鉄欠乏の場合は食事指導が重要となりなす。特に成長期、発育期の選手の食生活が、 コンビニやファーストフード中心であると、充分な鉄分の補給が期待できません。栄養のバランスを考えた、肉、魚、海草、野菜などによる鉄の摂取と同時に、消化管での鉄の吸収を良くするためのビタミンCの摂取が有効です。

 いずれにせよ、少しでも貧血の症状が疑わしければ、小児科、内科への受診をおすすめします。

貧血の症状
全身症状 微熱、易疲労感、倦怠感
皮膚・粘膜 蒼白
呼吸・循環 動悸、息切れ
脳神経科 頭痛、めまい、耳鳴り
その他 食欲不振、無月経


三神美久(三神医院)

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