◆スポーツ医科学◆ |
第6回 脱離歯に対する応急処置 |
(会報誌 第21号より) |
今回は、歯科分野の中で、サッカー試合中に良く起こる歯の外傷についてお話いたします。 歯の外傷は、一般的に(1)歯冠歯折 (2)歯根歯折 (3)歯冠―歯根歯折 (4)歯の脱臼 (5)歯の脱離に分類することができますが、今回は特に歯が脱離(抜けてしまう)時の応急処置について書きたいと思います。 歯の脱離(歯が抜けてしまう)は、歯が外傷によって歯が歯槽窩(しそうか)から完全に裂離することで、上顎前歯に集中的に発生し、若年者に多く見られます。 このことは歯根未完成歯の歯周組織の靭帯や骨組織が疎かであり、脱離方向への外力に対して抵抗が少ないことに起因していると言われています。低学年では、転倒、高学年では練習や試合で他のプレーヤーの頭、肘などとの衝突による発生が多いようです。 実際に私の診療室でも、歯冠歯折や歯根歯折で毎年2、3人の選手が来院しますし、ゴールキーパーがゴールポストに衝突し、歯の脱離を起こしたケースもあります。そこで、応急処置ですが、(1)抜けた歯を汚い手で触らない、(2)軽く水で洗ったら、口の中か牛乳で保存。とにかく乾燥させない、(3)早く受診する(2時間以内)という事になります。 何故なら、脱離歯再植(再び元に戻す)の適応は、受傷歯および周囲支持組織損傷の状態によることはもちろんですが、再植まで口腔外にある経過時間と、保管の状態が再植処置の適否に大きく影響します。 根のまわりを不用意に触ると、歯の再植をつかさどる細胞を感染させたり、乾燥状態にしておくことは20~30分であっても不可逆的なダメージを受けることになります。さらに2時間その状態にすると、歯の細胞は死滅状態となります。 したがって、生理的な環境の中でされていることが望ましいわけで、最近は歯の保存液のボトルも市販されているので、歯科医に相談すると良いと思います。実際にエスパルスにもこの保存液は置かれています。 以上が脱離歯に対する応急処置法ですが、脱離(歯が抜ける)ことに対しての予防法はというと、なかなかこれといったものはありませんが、上顎前歯での頻度が高いということは、前歯が前突(前に出ている)することは、外傷を受けた時ダメージが強いためで、できることなら歯列矯正し直すことも予防の一つです。最近では、エスパルスに在籍したアラウージョ選手も前突と咬み合わせを直すため、矯正していました。 又もう一つは、マウスガードによる予防法です。ラグビーの選手が良く装着しているものです。これは装着できればかなりの予防が期待できます。ただ、欠点として違和感や発音障害がすることと、サッカーなどのようにプレーが継続する場合、息苦しいなどがあります。実際にエスパルスでも選手に装着してみましたが、入れない理由のほとんどが息苦しさでした。 しかし、低年齢のうちから装着することを義務付けたり、慣らすことを行えば可能かもしれません。ラグビーの場合は、低年齢から入れることを義務付けているようです。マウスガードには、外傷予防の他に、脳震盪の予防にもなると言われています。 最後に、もし不幸にも歯のトラブルが発生した場合(特に試合は休日に行うことが多いと思います)、駿河区曲金に救急歯科センターがあります。AM9:00~PM5:00まで、TEL054-288-1199です。当番の歯科医が2名おりますので、電話の上、受診されると良いと思います。 |
司馬 成(司馬歯科医院) |
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